【映画レビュー】裏切りのサーカス

[作品データ]
原題   Tinker Tailor Soldier Spy
製作年  2011
製作国  フランス・イギリス・ドイツ合作
配給   ギャガ
上映時間 127分
映倫区分 R15+
[スタッフ]
監督   トーマス・アルフレッドソン
製作   ティム・ビーバン
エリック・フェルナー
ロビン・スロボ
製作総指揮 ジョン・ル・カレ
[キャスト]
ゲイリー・オールドマン
ベネディクト・カンバーバッチ
コリン・ファース
トム・ハーディ
ジョン・ハート
マーク・ストロング
[解説]
スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの代表作を「ぼくのエリ 200歳の少女」のトーマス・アルフレッドソン監督、ゲイリー・オールドマン主演で映画化したスパイスリラー。
1960年代のロンドン。
ある作戦の失敗でイギリスの諜報機関サーカスを引責辞職したジョージ・スマイリーに、ある日特命が下される。
それは、いまもサーカスに在籍する4人の最高幹部の中にいる裏切り者=2重スパイを探し出せというものだった。
共演にコリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハートほか。
映画.comより引用

予備知識ゼロで臨むと、かなり難しい作品です。
私も、見終わった後、途方に暮れたので、解説サイトを参照させていただきました。
映画ドットコムの解説はかなりさらっとしているため、まず、あらすじを説明します。
・どんな話?
「裏切りのサーカス」は、さくっと言えば、「イギリス秘密情報部=サーカス(イギリスのケンブリッジサーカスに位置しているための通称)」内にいる二重スパイを見つけ出すというお話です。
では、二重スパイとは?
サーカスではソ連に対する諜報活動を行っています。
つまり、対ソ連のスパイたちの集まりです。
もし、その中に、実はイギリスを裏切っている、ソ連側のスパイがいるとしたら、そいつが二重スパイ=「もぐら」です。
ゲイリー・オールドマン演じるジョージ・スマイリーは、かつて、サーカスの長官である「コントロール」の右腕でした。
コントロールは、もぐらに関する情報を得るため、ほぼ独断で行ったオペレーションが大失敗して、失脚します。
スマイリーは、もぐらの話は全く知らずにいましたが、コントロールの右腕という立場上、彼も解雇されます。
当時、上層部はもぐらの存在をコントロールのたわ言くらいに考えていたのですが、他方面からのタレコミもあって、この件を調査することにします。
この時点で、既にコントロールは死んでいます。
そこで、調査担当に指名されたのが、解雇されたスマイリー。
コントロールは、スマイリーを含めたサーカス幹部5人の中にもぐらがいる、と疑っていました。
右腕として忠誠を誓っていた相手に疑われていたと知り、複雑な気持ちを抱きながらも、サーカスの職員ピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)を助手に指名して、調査を開始するスマイリーでしたが・・。
というストーリー。

原題の「Tinker Tailor Soldier Spy」は、容疑者5人につけられた暗号です。

詳しくは、5人を「Tinker, Tailor, Soldier, Poor man, Beggar-man」と名付けました。
これは、イギリスで、女の子が将来の結婚相手を占う時に使う言葉遊びが由来となっているそうです。
>tinker(鋳掛屋),tailor(仕立屋),soldier(兵士),sailor(水兵),rich man(金持ち),poor man(貧乏),beggar-man(乞食),thief(泥棒)
ちなみに、コリン・ファース演じるビル・ヘイドンは、「tailor」です。
「キングスマン」と同じ!と、少しく興奮しました・・
・主役ゲイリー・オールドマンの抑えた演技が素晴らしい
本作は、2回、鑑賞することが推奨されているようです。
つまり、1回目は筋を追うのに必死になってしまうけれど、2回目に見ると、1回目に気付かなかったいろいろな伏線に気付いて、びっくりするくらい視界が広がるのだそう。
私は1回しか見ていないですが、では、1回だけでは足りないのか?と訊かれたら、そうではないと言いたいです。
本作は、スパイ映画といっても、アクションはなく、心理戦が主になっています。
よって、俳優さんたちの表情演技がキモです。
特に、主役のスマイリーは、優秀な諜報員という設定上、演じるゲイリー・オールドマンが感情を表に出すことはほとんどありません。
それなのに、ちょっとした間の取り方、ふとした口元のゆがみ、ゆっくりとした視線の回し方や眉の上げ下げで、スマイリーの内面を雄弁に語っています。
これぞ演技!と私が思うものです。
また、スマイリーは優秀ですが、最愛の妻アンという弱点があります。
しかも、その妻は奔放で、スマイリーの同僚ビル・ヘイドン(コリン・ファース)と浮気もするし、しょっちゅう家出をしてしまうような女性のようです。
それでも、スマイリーは、アンの浮気に気付かないふりをしたり、ひたすら彼女の帰りを待ち続けていたりしているのでした。
そういった、みじめな夫としての一面も、違和感なく、同じ一人の人間の中に同居させています。
ほとんど動かない表情だけで。
これはすごいことで、ゲイリー・オールドマンの演技だけでも、この作品を見る価値はあります。
・誰が二重スパイか、は問題ではないかも
本作の目指すところはもちろん、誰が裏切り者の二重スパイか、を突き止めることですが、実際には、犯人捜しは重要ではないように思えます。
サーカスに所属する諜報員たちも、スパイとはいえ、人間です。
彼らの出世欲・保身欲・名誉欲などの人間性を描くことに、比重を置いているように感じました。
作中に、オールドマンが、ソ連のスパイに向かって、
「長年、お互いの体制の弱点を探る仕事をしてきたが、どちらの体制であれ、それだけの価値があるのだろうか」
と語りかける場面があります。
自分の家族も愛する人も失いながら続ける価値のある仕事なのか、オールドマンのような優秀なスパイでさえも、分からなくなる時があるのでした。
二重スパイを犯した人物は、もしかすると、顔のないスパイとしてよりも、名のある裏切り者として記憶されたかったのかもしれません。
オールドマンに常に漂う哀愁や孤独や疲労感からも、諜報員という職業のやるせなさが、作中に重苦しく充満しています。
よって、話の筋がクリアーに分からなくても、その雰囲気を感じられればオッケーでは、と思います。
・残念に思った点について
本編を通じて、オールドマンの妻アンがはっきりと画面に登場することはありません。
そのことが彼女の神秘性を高めています。
その点に不満はないのですが、とにかくオールドマンが無条件に「アン命」過ぎて、男性ばかりの映画で、女性がこのように扱われることについては、同じ女性として少し複雑な気持ちがあります。
男性が書く物語の中に登場する女性が、あくまで、男性の思い描く女性でしかない、ということにもどかしく思う気持ちと同じです。
そして、二重スパイが、祖国を裏切った理由も物足りなかった。
「道徳的かつ審美的判断」と語りますが、詳細はナシ。
個人的に、ソ連側につくことが、何故、「道徳的かつ審美的」になるのかが理解できなかったため、もう少し説明があるとよかったです。
彼は愛することを知っている人間のようなのに、何故、そこまで自分本位になれるのかが分かりませんでした。
ラストの展開は、二重スパイの辿る末路も含めて、少し感傷が過ぎた気もします。
登場人物の皆さんには申し訳ないですが、最後まで、作品の透徹した雰囲気を保ってほしかった、というのが個人的意見です。
・その他の役者さんと暴力描写
本作には、ベネディクト・カンバーバッチとトム・ファーディも出演しています。
でも、ブレイク前のためか、2人とも少し気の毒な扱われ方です。
カンバーバッチは、出番が多いのはいいのですが、完全にオールドマンの使いっ走り。
危険な任務を、「失敗しても助けられないから」と言われつつ命じられ、頑張って成功させても、重要な情報を知らされていなかったことを後から知って、がっかり。
(失敗した時の尋問対策ではあったのですが)
二重スパイのアジトでは、寒い屋外で見張り役・・。
下っ端ってつらすぎる。
トム・ファーディは、筋肉系(=頭はよくない)色男役として、ラブストーリー担当となっております。
私が初めてファーディのステキさに気付いたのは「チャイルド44」ですが、本作とは結構な落差が・・。
でも、それを演じ分けることが出来るのだから、すごい俳優さんということで、めでたしにしておきます。
あと、忘れてはいけないのが、マーク・ストロング。
彼はてっきり死んだと思っていたら実は生きていた、というのが、私の最初の混乱の始まりでした。
(彼が登場する箇所は回想シーンと思い込んでいた)
ストロングさんは、「キングスマン」でもコリン・ファースの相棒ですね!
本作でも共演されていたなんてステキ。
それから、本作がR15+指定である理由は、恐らく、まことにさりげなく挿入される死体のせいです。
スパイ流の殺し方なのか、かなり残虐な殺され方となっております。
ホラー映画以外で、腸が飛び出している死体を初めて見ましたよ!
あと、私はそうと気付きませんでしたが(意識的にスルーしたような気もする)、脳漿も出てきます。
苦手な方はご注意ください。
ちなみに、スパイものにはつきものである、拷問シーンはありません。
苦手な方はご安心くださいませ。
・まとめ
難解で理解が追いつかない、という評判は本当ですが、書いてきたように、話の筋がしっかり分からなくてもよいのでは、と思える作品でもあります。
ストーリーで分からない点は、解説サイトで後から理解することもできますので、難しそうという理由でちゅうちょせず、手に取っていただきたい作品です。
でも、もし、時間があれば、2回見るのがいちばんいいみたい。

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