【BOOKレビュー】鏡は横にひび割れて (※ネタばれなし)

【作品データ】
原題  THE MIRROR CRACK’D FROM SIDE TO SIDE
著者  アガサ・クリスティー
発行年 1962年
訳   橋本福夫
=== Amazonより抜粋 (ここから)===
新興住宅地が作られ、セント・メアリ・ミードの風景もどんどん変わってゆく。
だがミス・マープルの好奇心だけはいつも変わらない。
有名女優が村に引っ越してきて、いわくつきの家に住み始めた。
その引っ越しパーティの席上、招待客が死亡してしまう。
永遠の名老婦人探偵マープルが謎に挑む。
=== Amazonより抜粋 (ここまで)===

今回、テレビ朝日でドラマ化されるもう1つのクリスティ作品(マープルもの)、「鏡は横にひび割れて」の感想です。
(もう1つの「パディントン発4時50分」の感想はこちら
タイトルは、19世紀に活躍したイギリス人の詩人アルフレッド・テニスンの作品「シャロット姫」から引用されているとのこと。
テニスンの名前は聞いたことがあるような気がしますが、その詩の内容は全然知りません。
そんなわけで、どんな内容なのか、調べてみました。
大変さっくりですが、下記のような感じ。

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シャロット姫は、外の世界を直接見ると死ぬ、という呪いをかけられている。

彼女の仕事は、ただひたすらタペストリーを織り続けること。
彼女の部屋には鏡がかけられていて、その鏡を通してなら、外の世界を見ることができるが、そこから見えるのは虚構のみであり、シャロット姫はもううんざりしていた。
ある日、外の世界から、ランスロット卿の歌声が聴こえてきた。
シャロット姫は、そのうつくしい声の持ち主の顔が見たくて、思わず直接外の世界を見てしまう。
すると、部屋の鏡は横にひび割れ、部屋から逃げ出してランスロット卿を追いかけようとした彼女は、タペストリーの糸に絡めとられて死んでしまった。
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作中でも、ミス・マープルのお友だちであるバントリー夫人がさらっと引用したくらいですし、この「シャロット姫」をテーマにした絵画もたくさんあるみたいなので、イギリスでは有名なお話のようですね。
日本人は知らなくても仕方ない、ということにしておいていただきたいと思いまする。
さて、何故この詩の内容まで出してきたかというと、このタイトルが、作中の重要な登場人物である有名映画女優マリーナ・グレッグのある時の表情を言い表しているからです。

鏡がひび割れたのを目にしたシャロット姫は、すなわちそれが自分の命の終わりであると悟ったわけですが、殺人が起こる直前のマリーナ・グレッグの表情は、まさにその時のシャロット姫を彷彿とさせたの、と目撃者のバントリー夫人は語ります。

小説はタイトルも重要とよく言われますが、この作品のタイトルも、内容を端的に表現していて素晴らしいです。

どんくさい私には滅多にないことですが、実は、この作品を読んでいた時、かなり早い段階で、犯人と動機が分かってしまいました。
しかしながら、普通、早いうちに犯人の目星がついてしまうと、後は「自分の考えが合っているのか」ということを確かめたくて
焦って読み進めがちですが、クリスティの場合、そんなこともありません。
ミス・マープルやバントリー夫人の世間話ふうの会話が面白く、殺人事件そのものよりも、こういう会話劇を書くことの方にクリスティも楽しみを見出していたのではないか、と思うくらいです。
特に、サイドストーリーになっている、ミス・マープルとお節介な世話係との攻防戦は小さく吹き出すくらい楽しい。
いつでも何でも知っている無敵のミス・マープルでも、この洞察力のかけらもないお世話係からは逃げられなくて、いろんなことを我慢しなくてはいけないのが、気の毒やらおかしいやらです。
謎解きはもちろん作中のメインですが、それだけではなくて、上述のミス・マープルの日常などもよいスパイスになっているし、さらに、マリーナ・グレッグとその夫であるジェースン・ラッドの人柄も重要なテーマのひとつです。
マリーナ・グレッグには浮世離れしたうつくしさ、気まぐれな気性(でも本人はまじめ)とそれが許される境遇があります。
でも、そんな稀有な人でもやはり、本質的には、普通の人と同じことを望んで同じことを悲しみ、同じことを恐れるんだなあと感じます。
そして、そのマリーナを心から愛しているジェースン・ラッドの悲壮感が痛々しい。
被害者の行動含め、読んだ後にいろいろと考えさせられる作品です。
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